EPA介護福祉士候補者制度の概要を行政書士が解説。インドネシア・フィリピン・ベトナムからの受入れの流れ、在留資格、受入れ施設の要件、国家試験合格に向けた学習支援、メリットや最新の合格率まで詳しく紹介します。

更新日:2026/09/06

EPA介護福祉士候補者制度の概要と実務

介護人材不足が深刻化する中、外国人介護人材の受入れを検討する介護事業者が増えています。
外国人介護人材を受け入れる制度には、EPA技能実習特定技能などがありますが、その中でも長い運用実績を持つ制度が「EPA介護福祉士候補者制度」です。
EPAとは「Economic Partnership Agreement(経済連携協定)」の略称で、日本と相手国との経済連携を促進するために締結される国際協定をいいます。
EPA介護福祉士候補者制度は、この協定に基づき、外国人が日本の介護施設等で就労しながら介護福祉士国家試験の合格を目指す制度です。
現在、日本はインドネシアフィリピンベトナムの3か国から介護福祉士候補者を受け入れています。
もっとも、EPA制度は単なる人材確保制度ではありません。
日本と相手国との経済連携や人材交流を目的として創設された制度であり、受入れ施設には国家試験合格に向けた学習支援や生活支援なども求められます。
この記事では、EPA介護福祉士候補者制度の概要について解説します。




EPA介護福祉士候補者が来日するまでの流れ

EPA介護福祉士候補者は、一定の学歴や資格要件を満たした上で来日します。
来日前には日本語研修を受講し、日本語能力試験の基準を満たす必要があります。
また、来日後も日本語研修を受けたうえで介護施設に配属されます。
配属後は介護業務に従事しながら介護福祉士国家試験の合格を目指します。




EPA介護福祉士候補者の在留資格と就労期間

EPA介護福祉士候補者は「特定活動」の在留資格で来日します。
候補者としての在留期間は原則4年間です。
この期間内に介護福祉士国家試験に合格すると、在留資格「介護」への変更が可能になります。
在留資格「介護」は更新回数に上限がなく、配偶者や子どもの帯同も認められているため、長期的な定着が期待できる制度です。そのため、受入れ施設にとっては将来的な中核人材として育成できる可能性があります。




受入れ施設の対象となる事業所

EPA介護福祉士候補者を受け入れられるのは、介護保険施設や一定の障害福祉サービス事業所等です。
主な受入れ先としては、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院、通所介護事業所、障害者支援施設などが挙げられます。
候補者は受入れ施設において介護業務に従事しながら介護福祉士国家試験合格を目指します。
もっとも、EPA介護福祉士候補者はすべての介護事業所で受け入れられるわけではありません。受入れ施設には一定の要件が設けられています。
例えば、入所系施設については原則として定員30名以上であることが求められます。
また、候補者に対する指導体制を確保する観点から、介護福祉士資格を有する職員を一定数配置していることも必要です。


EPA介護福祉士候補者の受入れを希望する場合は、公益社団法人国際厚生事業団(JICWELS)を通じて申請手続きを行います。
JICWELSは候補者のあっせんや受入れ調整、研修支援などを担う機関として重要な役割を果たしています。
➡ 公益社団法人国際厚生事業団 JICWELS


国家試験合格に向けた学習支援が重要

EPA介護福祉士候補者を受け入れる場合、受入れ施設には国家試験合格に向けた学習支援体制の整備が求められます。
候補者は介護現場での業務に従事しながら介護福祉士国家試験の合格を目指すため、業務と学習の両立が大きな課題となります。
特に、介護分野特有の専門用語の理解や介護過程の習得、日本語による読解力の向上は重要な学習課題です。
そのため、受入れ施設では勤務シフトの調整による学習時間の確保、試験対策のための模擬試験の実施、研修参加への配慮などの支援を行うことが一般的です。
また、JICWELSの手引きでは、施設職員によるOJT指導や国家試験対策の学習支援、教材費などについては、原則として受入れ施設が負担することが求められています。
さらに、通信教育や介護福祉士養成施設での聴講、日本語学校の利用など外部教育機関を活用する場合についても、費用の助成や就学時間の確保など、可能な範囲での支援が求められています。
一方で、勤務時間内に実施される研修については賃金支払いの対象となり、勤務時間外の講習については候補者の自由参加となるなど、労務管理上の整理も必要となります。


国家試験の合格率と最新の動向

介護福祉士国家試験の合格率は、全体とEPA介護福祉士候補者とで明確な差が見られます。
これまで試験全体の合格率はおおむね70〜80%台で推移しており、受験者の多くが一定の実務経験を積んでいることから、比較的高い水準で安定していました。
一方で、EPA介護福祉士候補者の合格率は年度による変動が大きく、これまではおおむね40〜60%前後の範囲で推移してきました。
しかし、直近の第38回(2026年3月発表)国家試験では試験全体の難易度が上がった影響もあり、全体の合格率は70.1%、EPA候補者の合格率は31.8%まで落ち込んでいます。
この合格率の差や近年の低下傾向が生じる主な要因としては、以下の3点が挙げられます。

• 日本語による読解負担の大きさ(特に事例問題などの難化)
• 介護現場でのフルタイム勤務と国家試験対策を並行する厳しさ
• 受入れ施設ごとの学習支援体制の充実度による格差

直近の試験結果からも分かるように、問題の難化傾向が進む現在、候補者の努力だけに頼るのではなく、受入れ施設側による「これまで以上に手厚く計画的な学習支援体制」の整備が、合格への大きな鍵を握っています。



EPA介護福祉士候補者受入れのメリット

EPA介護福祉士候補者の受入れには複数のメリットがあります。
まず、来日時点で一定の日本語能力を有しているため、利用者とのコミュニケーションが比較的円滑に行える点が挙げられます。
また、介護福祉士資格の取得という明確な目標を持って来日するため、学習意欲や就労意欲が高い傾向があります。
さらに、介護福祉士国家試験に合格した場合には在留資格「介護」へ移行し、長期的な雇用が可能となるため、人材定着の観点からも有効な制度とされています。


一方で、すべての候補者が国家試験に合格するわけではなく、一定数は不合格のまま在留期間を終え帰国するケースもあります。
その背景には、日本語による読解負担や業務と学習の両立の難しさ、受入れ施設ごとの学習支援体制の差などが影響しています。
このようにEPA制度は、短期的な人材確保ではなく、国家資格取得を前提とした育成型の仕組みである点に特徴があります。


まとめ

近年、福祉分野における外国人材の受入れは拡大を続けており、介護現場においても重要な担い手となっています。
最新のデータによると、外国人介護人材の中で最も多いのは「特定技能」で約5.5万人規模、次いで「技能実習」が約2.1万人規模、そして長い実績を持つ「EPA介護福祉士候補者」が約1.4万人規模で推移しています。
各制度には目的や仕組みに明確な違いがあり、特定技能が即戦力人材の確保を目的としているのに対し、EPAは「日本の介護福祉士国家資格の取得」を前提とした、育成型の制度です。
単なる人手不足の解消としてではなく、自施設の将来を担う人材育成の仕組みとして、それぞれの制度特性を正しく理解し選択することが重要です。