更新日:2026/08/21
「日本版DBS」という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
日本版DBSとは、こどもと接する仕事に就く人について、一定の性犯罪歴がないかを確認する仕組みです。
正式には
「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」
という法律に基づく制度で、法律の施行日は2026年12月25日です。
ニュースなどで「日本版DBS」と呼ばれていますが、正式な法律名は「こども性暴力防止法」と呼ばれています。
この制度は、学校や保育所だけを対象とするものではありません。
障害児福祉の分野も対象となっており、児童発達支援、放課後等デイサービス、保育所等訪問支援、居宅訪問型児童発達支援などの障害児通所支援事業や、障害児入所施設等にも関係します。
この記事では、障害児通所支援事業所や障害児入所施設を運営している方に向けて、日本版DBSの基本的な仕組みと、事業者にどのような対応が求められるのかを行政書士が解説します。
日本版DBSは、こどもに対する性暴力を防止することを目的とした制度です。
DBSは「Disclosure and Barring Service」の略称で、イギリスにおいて、こどもや社会的弱者と接する仕事に就く人の犯罪歴などを確認する仕組みが設けられています。
日本版DBSも、このような仕組みを参考にした制度として検討されてきました。
日本のこども性暴力防止法では、こどもに接する一定の事業者に対して、従事者の犯罪事実確認をはじめとする、こどもへの性暴力を防止するための措置を求めています。
したがって、「日本版DBS=職員の犯罪歴を調べる制度」とだけ理解するのは正確ではありません。
犯罪事実確認は制度の重要な部分ですが、それだけではなく、採用時の対応、研修、相談体制、被害が疑われる場合の対応、情報管理など、事業者側にもさまざまな対応が求められます。
こども性暴力防止法は2024年6月に成立・公布され、2026年12月25日に施行されます。
したがって、障害児通所支援事業所や障害児入所施設を運営している事業者は、「まだ先の話」と考えるのではなく、施行までに必要な準備を確認しておく必要があります。
こども家庭庁も、施行に向けて事業者向けの準備ガイド、チェックリスト、研修教材、各種ひな型などを公開しています。
特に、求人票や募集要項、就業規則、児童対象性暴力等への対応に関する規程、情報管理などについて、施行前から準備することが望ましいとされています。
障害児福祉の事業者にとって、まず確認しておきたいのが
「自分の事業所は日本版DBSの対象なのか」
という点です。
こども家庭庁が公表している施行ガイドラインでは、対象となる児童福祉事業として、指定障害児通所支援事業が明記されています。
つまり、放課後等デイサービスや児童発達支援を運営している事業者にとって、日本版DBSは直接関係する制度です。
障害のあるこどもを日常的に支援する事業である以上、職員とこどもとの接触機会も多く、日本版DBSによる性暴力防止の仕組みが重要になると考えられます。
障害児入所施設についても、日本版DBSの対象となります。
こども家庭庁の資料では、こども性暴力防止法の対象となる児童福祉施設として、「指定障害児入所施設等」や「障害児入所施設」が挙げられています。
障害児入所施設では、こどもが施設で生活することになるため、職員がこどもの生活全般に関わるケースもあります。
そのため、日本版DBSについては、障害児通所支援事業所とはまた違った観点から、職員の範囲や事業者としての対応を確認しておく必要があります。
日本版DBSの重要な仕組みの一つが、「犯罪事実確認」です。
事業者が対象となる従事者について手続きを行い、一定の性犯罪に関する前科があるかどうかを確認する仕組みです。
ただし、ここで注意したいのは、一般的な「犯罪歴調査」とは異なるということです。
確認の対象となる犯罪や、確認される期間、対象となる従事者の範囲などについて法律や政省令等で定められています。
そのため、「警察に問い合わせれば職員の犯罪歴を全部教えてもらえる」という制度ではありません。
日本版DBSについて理解する際には、どの犯罪が確認対象になるのか、どの期間が確認されるのか、誰が対象になるのかを分けて考えることが重要です。
日本版DBSについて、最も注意しておきたいのがこの点です。
日本版DBSという名前から、「職員の犯罪歴を確認する制度」というイメージを持つ方もいるかもしれません。
しかし、こども性暴力防止法では、犯罪事実確認だけではなく、こどもへの性暴力を防止するためのさまざまな措置が求められます。
こども家庭庁は、事業者向けの準備資料などにおいて、
・採用時の対応
・研修
・相談窓口
・被害が疑われる場合の対応
・保護者やこどもへの周知
・情報管理
などについても示しています。
つまり、「犯罪事実確認をすれば日本版DBSへの対応は終了」というわけではありません。
事業所全体として、こどもへの性暴力を防止するための仕組みを整えていくことが重要になります。
障害児通所支援では、こどもの特性によっては、自分が受けた行為について十分に意思表示したり、周囲に伝えたりすることが難しい場合があります。
全国児童発達支援協議会も、こども性暴力防止法について、障害のあるこどもを含むすべてのこどもを性暴力から守ることの重要性を示しています。
障害児支援に携わる事業者にとって、日本版DBSは単なる新しい行政手続ではありません。
こどもが安心して支援を受けられる環境をどのように作るかという、障害児支援の安全管理に関わる制度として考える必要があります。
特に放課後等デイサービスや児童発達支援では、職員とこどもの距離が近く、日常的に支援を行うため、制度の内容を正しく理解しておくことが重要です。
2026年12月25日の施行に向けて、障害児通所支援事業所では、まず現在の採用・人事管理や事業所の安全管理体制を確認しておくとよいでしょう。
特に確認しておきたいのは、次のような事項です。
・日本版DBSの対象となる事業・従事者の範囲
・現在勤務している職員について必要となる対応
・新しく職員を採用する場合の対応
・求人票や募集要項の見直し
・就業規則等の見直し
・児童対象性暴力等への対応ルール
・職員への研修
・相談窓口や相談体制
・こどもや保護者への周知
・犯罪事実確認に関する情報の管理方法
ここまで、日本版DBSについて障害児通所支援事業所や障害児入所施設との関係を解説してきました。
私がこの制度について考えるうえで重要だと思うのは、近年の障害福祉では、虐待防止や利用者の安全確保がこれまで以上に重視されているということです。
障害福祉では、虐待など重大な問題が発生した場合、事業者に対して厳しい行政処分が行われることがあります。
場合によっては指定取消しにつながることもあります。
また、障害福祉サービスの事業所数が増える中で、行政もサービスの質や適正な事業運営を注視しています。
つまり、障害福祉と虐待防止は切り離して考えることができません。
その流れの中で、日本版DBSも重要な意味を持つのではないでしょうか。
日本版DBSは、こどもを性暴力から守るための制度ですが、適切に運用することで、事業者自身を守ることにもつながるのではないかと私は考えています。
犯罪事実確認だけでなく、職員研修や相談体制、問題が発生した場合の対応手順などを整えておくことで、事業者として安全確保に取り組んでいたことを示すことにもつながります。
もちろん、日本版DBSだけで虐待や性暴力を防げるわけではありません。
日頃の職員教育や組織としてのリスク管理も重要です。
だからこそ日本版DBSを、単なる「犯罪歴を確認する制度」と考えるのではなく、こどもを守り、職員を守り、そして事業所を守るための安全管理を見直すきっかけとして捉えることが重要なのではないでしょうか。