更新日:2026/05/22
障害を持つ子の将来を考えたとき、多くの親御さんが不安に感じるのが
「自分が亡くなったあと、この子のお金や生活は誰が守るのか」
という問題です。
いわゆる「親なきあと問題」は、住まい・生活支援・福祉サービスだけでなく、財産管理の仕組みづくりが非常に重要です。
相続で財産を残すだけでは、適切に管理されるとは限りません。
本人が金銭管理に不安を抱えていたり、計画的な支出が難しく生活費を短期間で使い切ってしまったりするケースもあります。
そこで選択肢の一つとなりえるのが「信託」です。
信託は、信頼できる人や金融機関に財産管理を任せ、本人の生活のために使ってもらう制度です。
本記事では、障害を持つ子の親なきあと対策として知っておきたい信託制度を整理して解説します。
信託とは、自分の財産を、信頼できる相手に託し、決めた目的に従って管理・運用・給付してもらう仕組みです。
登場人物は主に3者です。
• 委託者:財産を託す人。多くは親御さんです。
• 受託者:財産を預かり、管理・給付する人。親族や専門家、金融機関などです。
• 受益者:信託財産から利益を受ける人。障害を持つ子本人になるケースが典型です。
福祉型信託とは、障害を持つ子や高齢者など、生活支援が必要な人のために設計される信託の総称です。
法律上の正式名称というより、実務上の呼び方として使われます。
親が財産を信託し、受託者が毎月一定額を本人へ給付したり、施設利用料や医療費を支払ったりすることで、生活基盤を安定させる目的があります。
たとえば、親が3,000万円を信託し、
「毎月10万円を生活費として給付する」
「入所施設費用は別途支払う」
と定めることができます。
福祉型信託のメリットは、単なる相続よりも使い道を設計できる点にあります。
加えて、財産を一括で承継させるのではなく、信託契約に基づいて受託者が継続的に管理し、必要に応じて生活費や医療費として給付できる点も大きな特徴です。
なお、契約内容によっては財産の活用・運用を行うことが可能な点も特徴です。
生命保険信託は、生命保険金を一括で渡すのではなく、信託を通じて管理・分配する仕組みです。
親が亡くなった際、保険金がまとまった金額で本人に入ると、管理が難しいケースがあります。
そこで、保険金を信託財産とし、毎月定額で生活費として支給する方法が有効です。
たとえば、2,000万円の死亡保険金を信託し、月10万円ずつ長期にわたり給付する設計も可能です。
生命保険信託は、現金資産が多くない家庭でも準備しやすい点が特徴です。
近年は信託銀行や一部の地方銀行・都市銀行でも、親なきあと対策として信託商品を扱っています。
銀行を利用するメリットは、管理体制・継続性・事務処理の安定感です。
信託は、契約設計や財産管理、税務など専門的な検討が必要になることが多いため、親族だけで受託者を担うことに不安がある場合には、金融機関や専門家の関与を検討することも有力な選択肢の一つです。
一方で、初期費用だけでなく継続的な管理手数料が生じる場合もあるため、契約前に総コストを確認しておくことが重要です。
特定贈与信託とは、一定の要件を満たす特別障害者および特別障害者以外の特定障害者の方を受益者として、親族などが金銭を信託した場合に、贈与税の非課税措置を受けられる制度です。
将来の生活費や療養費に備える資金を準備しながら、税負担を抑えられる可能性があります。
特別障害者とは、重度の心身障害者を指します。
特別障害者以外の特定障害者とは、中軽度の知的障害者および障害等級2級または3級の精神障害者等を指します。
通常、贈与では年間110万円の基礎控除を超える部分に贈与税がかかりますが、この制度を利用した場合、特別障害者の方は6,000万円まで、特別障害者以外の特定障害者の方は3,000万円まで贈与税が非課税となります。
ただし、対象となる障害区分、信託契約の内容、金融機関での取扱い、必要書類など細かな要件があります。
制度利用を検討する際は、税理士や金融機関など専門家へ事前確認することが重要です。
信託制度は種類よりも、実際には「誰が受託者になるか」が成功の鍵を握ります。
親族が受託者になる場合は、本人理解が深い反面、長期負担や親族間トラブルのリスクがあります。
専門職や金融機関は客観性・継続性がありますが、費用がかかります。
また、受託者を監督する仕組みとして、信託監督人や受益者代理人を置くことも検討できますが、こちらも選任方法によっては費用がかかります。
そのため、費用負担と安心感・管理体制の充実というメリットを比較しながら、家庭ごとに適切な形を検討することが大切です。
信託と成年後見制度は、制度の目的が異なるため単純に優劣を比較することはできません。
信託は、財産を将来に向けて管理・活用しながら、本人の生活を支える仕組みづくりに向いているという特徴があります。
たとえば、不動産の管理や収益物件の活用、生活費の定期給付などに強みがあります。
これに対し、成年後見制度は、判断能力が不十分な本人の権利を守り、財産を適切に管理・保全することに重点があります。
あわせて、福祉サービス契約や施設入所契約など、本人に代わる法律行為の支援も重要な役割です。
そのため、信託は「財産を活かす制度」、後見は「本人を守る制度」と捉えると、違いが理解しやすいでしょう。
障害を持つ子の親なきあと対策として、信託は非常に有効な制度です。
福祉型信託、生命保険信託、銀行での信託、特定贈与信託など、それぞれ目的が異なります。
大切なのは、財産を残すことそのものではなく、
「その財産が本人の暮らしを支え続ける仕組み」
を作ることです。
親御さんが元気なうちに、家族で話し合い、専門家と一緒に設計することが将来の安心につながります。
信託は、そのための現実的で有力な選択肢の一つです。