遺言は富裕層だけのものではありません。家族仲が良くても相続トラブルは起こり得ます。遺言が必要な理由、遺言がない場合の流れ、自筆証書遺言・公正証書遺言の違い、障害のある家族がいる場合の備えまで行政書士がわかりやすく解説します。

遺言は本当に必要?家族仲が良くても備えるべき理由と種類・作成方法について

更新日:2026/05/05

障害をもつ子の親の遺言について

遺言は本当に必要なのでしょうか


「うちは家族仲も良いし、財産もそれほど多くないから遺言までは必要ない」
「まだ元気だから、もう少し先になってから考えればいい」


このようにお考えの方は少なくありません。
しかし、行政書士・社会福祉士としてご相談に触れる中で、遺言は特別な家庭だけのものではなく、多くのご家庭にとって有効な備えだと感じています。
遺言がない場合、相続人全員で遺産分割の話し合いが必要になることがあります。


家族仲が良くても、いざ相続となると手続負担や認識の違いから、思わぬ行き違いが生じることもあります。
とくに、ご家族に障害のある方がいらっしゃる場合には、将来の生活や財産管理への配慮がより重要になります。
遺言によって財産の承継先や想いを明確にしておくことで、ご本人にもご家族にも安心につながるケースは少なくありません。
「まだ早い」ではなく、「元気な今だからこそ考えられる準備」として、遺言を検討する価値は十分にあります。



相続を“争続”にしないために

家族仲が良好であっても、相続をきっかけに意見の対立が生じることは珍しくありません。
たとえば、障害のあるご家族を長年支えてきた兄弟姉妹が、
「負担を担ってきたのに相続分が同じなのは納得しにくい」
と感じるケースがあります。
また、その配偶者や周囲の家族の意見が加わり、話し合いが複雑になることもあります。
もちろん、すべての相続が争いになるわけではありません。
しかし、将来の火種になり得る要素は、できる限り事前に減らしておくことが重要です。
実際、家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割事件は、高額資産家だけの問題ではありません
近年の司法統計でも、遺産分割で家庭裁判所に持ち込まれている紛争件数の内訳は、
遺産額5000万円以下」が全体の約76%を占めており、そのうちの約33%は「遺産額1000万円以下となっていることから、相続トラブルは、一部の富裕層だけではなく、一般のご家庭にも起こり得る身近な問題だという事がわかります。
だからこそ、遺言や生前の話し合いによる備えが大切になります。



遺言がない場合どうなるのか

被相続人が亡くなり遺言がない場合、誰がどの財産を取得するかを決めるため『遺産分割協議』が必要になるケースが一般的です。
遺産分割協議とは、相続人全員で、誰が・何を・どれだけ引き継ぐかを話し合って決める手続きです。
成立には、原則として相続人全員の合意が必要となります。
話し合いがまとまらない場合には、弁護士へ交渉代理を依頼したり、家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立て、解決を図ることになります。


一方、遺言がある場合には、原則としてその内容に沿って財産承継が進められます。
たとえば、

• 障害のある子に多めに財産を残したい
• 日常的に支えてきた兄弟姉妹に多く残したい
• 自宅不動産を特定の家族に承継させたい

といった親の意思を反映しやすく、相続人間の争いを予防しやすい側面があります。



遺言の基礎知識

遺言には、主に3種類の方式があります。
自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言です。
それぞれ特徴が異なるため、ご家庭の状況に応じて選ぶことが大切です。


①自筆証書遺言

自筆証書遺言は、遺言者ご本人が作成する方式です。
比較的手軽に作れる一方で、民法で定められた方式を満たしていない場合、無効となる可能性があります。
また、相続開始後には、原則として家庭裁判所で検認手続が必要です(法務局の保管制度を利用した場合を除きます)。
費用を抑えやすい反面、記載ミス・紛失・改ざんリスクには注意が必要です。


②公正証書遺言

公正証書遺言は、公証人が関与して作成する遺言です。
法的要件を満たした形で作成され、公証役場に原本が保管されます。
そのため、紛失や偽造のリスクが低く、相続開始後の検認手続も不要です。
もっとも確実性の高い方式として、実務上広く利用されています。
一方で、公証人手数料がかかることや、証人2名が必要となる点は留意が必要です。


③秘密証書遺言

秘密証書遺言は、遺言内容を秘密にしたまま、遺言書の存在を公証人と証人2名に確認してもらう方式です。
内容を秘密にできるメリットはありますが、利用例は多くなく、方式面の注意点や保管上の問題もあります。
また、相続開始後には検認手続が必要です。



どの方式を選ぶべきか

確実性を重視するなら公正証書遺言、費用を抑えて早めに準備したいなら自筆証書遺言が選択肢になります。
とくに障害のあるご家族がいる場合は、将来の生活設計や財産承継も踏まえて、専門家に相談しながら作成することをおすすめします。



遺言執行者の指定

遺言執行者とは、遺言書の内容を実現するために、相続財産の管理や名義変更、預貯金の解約・払戻しなど、必要な手続きを行う権限と義務を持つ人のことです。
遺言執行者がいることで、相続手続が円滑に進みやすくなります。
遺言執行者には、相続人が就任することもできますし、行政書士・弁護士・司法書士などの専門職や第三者を指定することも可能です。
もっとも、専門職へ依頼する場合には報酬が発生するため、遺産の内容や家族関係を踏まえて検討することが大切です。



遺留分にも注意が必要です

遺言によって、誰にどの財産を残すかをある程度自由に決めることができます。
しかし、一定の相続人には、法律上最低限保障された取り分として遺留分があります
たとえば、特定の子ども一人にすべての財産を相続させる内容の遺言を残した場合、他の相続人から遺留分を請求される可能性があります。
そのため、

• 障害のある子に多く残したい
• 長年支えてくれた子に厚く残したい
• 特定の家族へ自宅を承継させたい

といった希望がある場合でも、遺留分への配慮を踏まえて内容を検討することが大切です。
遺言はご本人の意思を実現する有効な方法ですが、後の争いを防ぐためには、法律面とのバランスも重要になります。



まとめ

障害のあるご家族がいらっしゃる場合、遺言は将来の生活や財産承継を考えるうえで、とくに重要性の高い備えの一つです。
もっとも、遺言というと難しく感じられるかもしれませんが、必ずしも最初から公正証書遺言にしなければならないわけではありません。
まずは、ご自身の思いや希望を整理するために、書面にしてみることから始めるのもよい方法です。
遺言は内容の見直しや書き直しも可能です。
また、エンディングノートを活用し、ご家族への思いや将来への希望を文字にして残すことも、最初の一歩として取り組みやすいでしょう。
不動産がある場合や、ご家族関係・相続人間の調整に不安がある場合には、行政書士・弁護士・司法書士などの専門家へ相談することも有効です。
将来の安心のために、できることから少しずつ準備を始めてみてはいかがでしょうか。