更新日:2026/05/11
障害のある子が不自由なく人生を送るためには、どの程度の財産を残せばよいのでしょうか。
しかし、「多く残せば良い」と単純に言い切ることはできません。
重要なのは、残した財産が確実に本人の生活のために使われることです。
私がこれまでの支援の中で見てきた事例として、次のようなケースがあります。
・お金の使い方がわからず、自分で管理できない
・浪費してしまう
・詐欺被害に遭ってしまう
特に近年増えているのが詐欺被害です。
スマートフォンが一人一台の時代となり、誰もが外部と簡単につながれるようになりました。
便利である一方で、海外からの不審な電話や、不自然に高額なアルバイトの勧誘メッセージなどに触れる機会も増えています。
中には、それを信じてしまい、被害に遭うケースも少なくありません。
こうしたリスクを踏まえると、「残すこと」だけでなく、「本人のために使われる形で残すこと」が極めて重要になります。
お金の準備は、ご本人やご家族の状況によって大きく異なります。
財産の額だけでなく、本人の判断能力や生活力、親族の支援体制などを踏まえて検討する必要があります。
そのためには、
「財産を残す仕組み」
「財産を管理する仕組み」
「セーフティネット」
といった複数の視点から整理することが重要です。
様々な財産を残す仕組みがありますが、ここでは代表的なものをいくつかご紹介いたします。
・遺言
財産処分や死後の法律関係について残す、法的な効力を持つ意思表示のことを遺言といいます。
親なきあと問題において、遺言は非常に重要な役割を果たします。
生活を支えるための配慮が反映されない可能性や相続人間のトラブルを未然に防ぐ効果も期待できます。
単に財産を残すだけでなく、「どのように使われるか」まで見据えた準備として、遺言の作成は親なきあと対策の中核となります。
・信託
財産を運用する場合、信託制度も視野に入れたほうが良い場合があります。
信頼できる家族など(受託者)に不動産や預貯金などの管理・処分権を託し、その財産から生じる利益を本人が受け取る(受益者)仕組みです。
・障害者扶養共済
障がいのある方を扶養している保護者が、毎月一定の掛金を納めることで、保護者が死亡したり重度障害を負ったりした際に、残された障害のある方へ生涯にわたって年金を支給する制度です。
生活保護受給中であっても収入認定から除外され、年金を受け取れる点が特徴的です。
・iDeCo(個人型確定拠出年金)
公的年金に上乗せして将来の資産を形成する、国が定めた任意の私的年金制度です。
・成年後見制度
判断能力が不十分な人の財産(預貯金・不動産など)の管理や契約(介護施設への入所契約など)を、家庭裁判所によって選任された代理人(後見人等)が支援し、本人の権利を守る法的な制度です。
後見人等への報酬は、家庭裁判所が本人の財産状況や業務内容に応じて決定し、原則として本人の財産から支払われます。
生活保護受給者や生活困窮者については、自治体によっては後見人等への報酬を助成する制度(成年後見制度利用支援事業)が設けられており、自己負担が軽減または免除される場合があります。
なお、近年は制度の硬直性が課題とされており、利用しやすさの向上に向けた見直しの検討も進められています。
・日常生活自立支援事業
福祉サービス利用手続きや日常的な金銭管理の支援を目的とした、社会福祉協議会が行う事業です。
後見制度と異なり、金銭管理は日常的な金銭管理(日用品の購入や公共料金の支払いなど)に限定されることが特徴です。
利用料は地域によって異なりますが概ね1時間数百円~千円程度です。
・生活困窮者自立支援制度
福祉事務所を設置する地方自治体が行う、経済的に困窮し最低限度の生活を維持することができなくなるおそれがある方へ包括的な支援を行う制度です。
自立相談支援事業や住居確保給付金、生活福祉資金貸付制度など、様々な生活困窮者に対する支援事業が行われています。
・生活保護
生活に困窮する方に対し、国が「健康で文化的な最低限度の生活」を保障し、同時に一日も早い自立を助長することを目的とした制度です。
憲法に基づく人権の一つであり、権利の一つです。
お金の準備で本当に重要なのは、「いくら残すか」ではなく、「その人の状況に合った形で確実に使われる仕組みをつくること」です。
本人の判断能力や生活状況、家族関係によって、最適な制度の組み合わせは異なります。
そして何より重要なのは、これらを一人で抱え込まないことだと感じます。
支援者とつながりながら設計していくことで、制度は初めて現実の生活の中で機能します。
制度は存在していても、つながらなければ使われません。
親なきあと問題への備えとは、特別な対策ではなく、「その人に合った制度を選び、支援者とつながり続けること」の積み重ねです。
その積み重ねが、将来の不安を現実的に軽減し、本人の生活を支える土台となるでしょう。