更新日:2026/04/28
「自分がいなくなった後、この子は一人で生きていけるのか」
親亡き後問題を考えるとき、多くの親が抱く不安はこの一点に集約されます。
制度や支援体制の話よりも、もっと切実で具体的な問いです。
結論から言えば、「完全に一人で生きていく」ケースは現場では多くありません。
多くの方は、グループホームや在宅支援、相談支援などを組み合わせながら、親以外の支援で生活を成り立たせています。
重要なのは、「一人でできるか」ではなく「親がいなくても支援を使って生活が回る状態になっているか」です。
『親がいない状態でも生活が回る状態になっているか』の分かれ目になるのが、生活の土台となる力と、外部とのつながりの有無です。
例えば、
• 日常生活スキル(食事・衛生・服薬など)がどの程度自立しているか
• 金銭管理や契約行為にどこまで関われるか
• 他者と最低限のコミュニケーションが取れるか
• すでに外部サービスとの接点があるか
などが挙げられます。
このような力が少しでも育っていれば、支援を使いながら生活を維持していくことは現実的になります。
一方で、こうした土台がほとんどないまま、親だけが生活を支えている状態は非常にリスクが高いと言えます。
私は以前、NPO法人でひきこもり支援に関わっていましたが、「親が倒れて初めて支援につながる」というケースも見てきました。
長年、家庭の中だけで生活が完結していると、本人は外部との関わり方を知らないままです。
相談先も分からず、手続きもできず、結果として支援の入り口に立つことすら難しくなります。
実際に、親が倒れた後も本人が適切に支援を求めることができず、孤立したまま生活が立ち行かなくなってしまったケースもありました。
外部との接点がないということは、困ったときに「助けて」と言える相手がいない状態でもあります。
このリスクは、想像以上に現実的です。
制度自体は存在していても、「つながれていない人」には機能しないというのが現場の実感です。
逆に言えば、早い段階から外部との接点を持てているかどうかが、その後を大きく左右します。
福祉サービスを利用している、相談支援専門員と関係ができている、通所先や居場所がある。
こうした経験があるだけで、親がいなくなった後も支援につながり続ける可能性は大きく高まります。
親亡き後問題への備えとして重要なのは、生活全体を「持続可能な設計」にしていくことです。
感覚的に任せるのではなく、住居・生活・資金という三つの観点から、親がいなくなっても回り続ける状態をつくれるかが問われます。
これら三つは独立した問題ではなく、相互に影響し合います。
例えば、住居の選択によって必要な資金や支援内容が変わり、生活の自立度によって利用できるサービスも変わります。
だからこそ、「一つずつ考える」のではなく、「生活全体をどう維持するか」という視点で設計していくことが重要です。
そして、この設計を現実のものにする手段の一つとして、法的な仕組みを活用することも重要になります。
代表的なものが遺言と成年後見制度です。
遺言は、親亡き後に財産をどのように残し、誰にどのように託すのかを明確にする手段です。
一方で成年後見制度は、本人の判断能力が不十分な場合に、契約や金銭管理を第三者が継続的に支える仕組みです。
つまり、「お金や資産をどう残すか」と「残された後にどう管理し、日々の生活に活かしていくか」を分けて考え、それぞれに手当てをしていくイメージです。
どちらか一方だけではなく、両者を組み合わせて検討することで、住居・生活・資金という三つの要素を、より現実的に持続可能な形に近づけることができます。
親にとって我が子は、かけがえのない存在です。
日々の何気ない時間や笑顔は、何にも代えがたいものだと思います。
しかし、人は誰しもいつかその役割を終える時が来ます。
そして多くの場合、親の方が先にいなくなります。
だからこそ、「その後をどうするか」は避けて通れないテーマです。
親の願いは、ただ一つ、我が子が安心して生活を続けていけることではないでしょうか。
その実現のためには、思いだけでなく、住居・生活・資金といった現実の部分を、いまのうちから整えていく必要があります。
すべてを一度に変える必要はありませんが、少しずつでも親以外の支えを増やし、生活が回る仕組みをつくっていくことが重要です。
親にとっても、本人にとっても、無理のない形で生活が続いていくこと。
そのための準備を、できるところから始めることが、結果として「その後の安心」につながっていきます。